多様化する日本の労働市場において、ネパール人材の存在感が高まっています。
しかし、「優秀なネパール人スタッフが定着せず、すぐに辞めてしまう」「文化や宗教の違い」から、どう接すれば良いかわからない」といった悩みを抱える採用担当者も少なくありません。
実は、彼らの持つ「真面目さ」「敬老精神」「家族を大切にする価値観」は、日本企業にとって大きな強みとなり得ます。ネパール人材の特性を理解し、適切なマネジメントを行うことで、彼らは最高の社員メンバーへと変わります。
この記事では、ネパール人の特徴から実践的なマネジメント術まで、成功への道筋をご紹介します。
ネパールの基本情報
ネパールは北部にチベット自治区、南部にインドと接しており、北部の国境には世界最高峰として有名な「エベレスト」およびヒマラヤ山脈がそびえ立っています。
首都カトマンズは高地に位置し、南部にはインドへと続く平野が広がります。
ネパールの国土は北海道の約1.8倍の広さを持っています。
2008年に王政が終わり、2015年に新憲法が施行され、連邦制を採用したネパールは、2020年に国名を「ネパール」に正式に変更しました。それまでの国名は「ネパール連邦民主共和国」でした。ネパールは、世界で唯一長方形でない形状の国旗を有する国としても知られています。
人口
2025年の時点で、ネパールの人口は29,618,117人であり、世界の国々の中で人口ランキングは52位となっています。日本の人口は約1億2,310万人と、減少傾向にあるものの、ネパールの約3000万人と比べるとはるかに多いです。
この比較から、ネパールの人口の少なさがよくわかります。
しかし、ネパールの人口構成は若年層が中心で、最も多い年齢層は20代となっています。
労働可能年齢の人口が全体の60%以上を占めており、国の中央年齢は23歳と非常に若いです。
さらに、高齢者の割合は10%未満となっており、これらのデータからネパールが労働力の多い若い国であることが伺えます。
隣国との関係
ネパールはインド、中国と接しています。インドとの関係は、経済、政治、文化、宗教の面で歴史的に深く、非常に緊密です。多くのネパール人がヒンドゥー教を信仰しており、これはインドからの移民の影響によるものです。
両国間の移動にはパスポートや滞在許可が不要で、そのためインドには多くのネパール人が就労や生活のために滞在しています。
一方、中国との関係は、近年特に強化されています。2017年には中国の「一帯一路」構想にネパールが参加し、「一つの中国」の原則にも賛同しています。
これは、インドとの関係が過度に密接になるのを避け、中国とも良好な関係を築くための戦略です。
ネパールは小さな国であり、力のある隣国であるインドと中国の間での関係のバランスを保つことを重視しています。
なぜネパール人は日本で働くのか
ネパールでは、約300万人(人口の約14%)が海外で生活しており、その多くが若年労働者です。
これは国内で十分な産業が育っておらず、農業やサービス業中心の経済構造に起因しています。
農業従事者は依然として約40%強を占めており、工業化が進まず産業多様化が遅れている状況です。
観光業は過去の自然災害や地理的制約の影響で成長が限定的です。
これにより多くのネパール人が国外での就労を選び、
2023年時点の送金額は約110億米ドル(GDPの25%超)となり、家庭や国家経済を支える重要な収入源となっています 。
こうした背景から、ネパールの若年労働者は海外就労を経済的自立や生活安定のための選択肢と捉えており、
今後も労働移民の流れは続くと見られています。
湾岸諸国が大半を占めるものの、治安の問題などから日本での出稼ぎが増加
ネパールからの海外労働者の多くはマレーシア、カタール、サウジアラビアなどの国で働いています。
実際はインドとネパールの間には自由に移動できる国境があり、そのため出稼ぎ者の正確な数に関する統計は存在せず、歴史的・地理的な背景から、インドがネパール人の主要な出稼ぎ先であると広く認識されています。
図説 ネパール経済2025|在ネパール日本国大使館によれば、日本へのネパール人出稼ぎ労働者の数はそれほど多くはないようです。
しかし、湾岸諸国での労働に関連する事故や虐待の問題、日本の安全性や教育面、滞在資格の取得が可能かを考慮した結果、ネパール人が日本での就労を希望する傾向が増えていることが伺えます。
ネパール人の特徴・性格【採用する際に注意したい5つのポイント】
①【強み】目標達成意欲の高さに繋がる、真面目な仕事観
ネパール人の真面目な仕事観は、単なる性格的特徴ではありません。
その背景には、母国の家族への送金という明確な目的意識があります。
ネパールのGDPの25%(超)が海外からの送金で占められている現実を考えると、彼らにとって日本での仕事は家族の生活を支える重要な手段なのです。
この強い動機が、彼らの勤勉さの源泉となっています。
特に注目すべきは、インセンティブ制度や明確な評価システムに対する反応です。
家族への送金額を増やしたいという具体的な目標があるため、頑張りが給与に直結する仕組みに対して、
他の国の人材以上に高いモチベーションを示します。
ネパール人を採用する際に、この背景を理解することは大切です。
彼らの真面目さは決して表面的なものではなく、愛する家族への責任感から生まれています。
だからこそ、成果に応じた適切な評価と報酬体系を整えることで、その目標達成意欲を最大限に引き出すことが可能です。
②【強み】チームへの貢献意識の源泉となる、家族を大事にする心
ネパール人の家族への深い愛情は、職場でも強力な武器となります。
理由としては、彼らは家族を大切にする心をそのまま職場に持ち込み、同僚や上司を「第二の家族」として接するからです。
この特性を活かすために、受け入れ企業では歓迎会やチーム内でのサポート体制を整えることが重要です。
新入社員の歓迎会を開催したり、困った時に気軽に相談できる先輩社員を配置することで、ネパール人社員は職場を安心できる場所と認識します。
実際に、家族的な雰囲気を大切にする企業では、ネパール人の定着率が格段に高くなっています。
彼らは一度「この職場は自分の居場所だ」と感じると、家族のために頑張るのと同じ情熱で、チーム全体の成功に貢献しようとします。
この助け合いの精神は、ネパールの地域コミュニティで培われた文化的背景から生まれています。
困っている人がいれば自然と手を差し伸べる姿勢は、職場でのチームワークを大きく向上させる要因となるでしょう。
③【強み】介護・接客業で発揮される、年配者を尊重する文化
ネパール人の年配者を尊重する文化は、介護や接客業において他国の人材より大きな強みとなります。
この文化的背景は、多民族国家として125もの民族が共存してきた歴史の中で培われた、多様性への深い理解と共感力から生まれています。
介護業界では、特にネパール人の特性が発揮できることが期待できます。
家族を大切にし、年配者を敬う文化が根付いているネパール人は、高齢者の尊厳を自然に理解し、
一人ひとりの価値観や生活習慣を尊重したケアを提供できるのです。
ホテルや飲食店などのサービス業においても、その丁寧な接客対応が期待できます。
年配のお客様に対して、適切な距離感を保ちながらも温かみのある接客ができるのは、
彼らが持つ文化的な素養があるからこそ、私たちとの関係が円滑に築かれているのだと思います。
さらに注目すべきは、困難な状況への忍耐力です。
貧困から脱却するために語学習得に励む姿勢が示すように、
体力的負担の大きい現場でも持ち前の勤勉さで業務の質を落とさず、長期にわたって活躍できます。
④【注意点】時間にルーズな一面と、その文化的背景
ネパール人の働き方を理解する上で避けて通れないのが、時間に対する意識の違いです。
これは「ネパリタイム」と呼ばれる文化的背景に起因しています。
山岳地形が多く、気候や交通状況が日々変わるネパールでは、物事を計画通りに進めることが困難な環境があります。そのため、時間を柔軟に捉える文化が根付いており、約束の時間に遅れることに対する感覚が日本とは大きく異なります。
加えて、ネパールでは人間関係を最優先に考える文化があります。
道で知人に会えば立ち止まって話をする、家族の用事があれば仕事よりも優先するといった価値観が、日本の厳格な時間管理と衝突することがあります。
重要なのは、これは決して悪気があるわけではないということです。
むしろ、家族や人とのつながりを大切にする彼らの美徳から生まれた習慣ともいえます。
この文化的違いは、後のマネジメントの章で解説する具体的な方法で乗り越えることができますので、ご安心ください。
⑤【注意点】成長の鍵となる「プライド」への適切な配慮
ネパール人のマネジメントにおいて大切なことは、彼らの自尊心に対する適切な配慮です。
多民族国家で育った背景から、人前での叱責を極端に嫌うなど、彼らなりの自尊心があります。
この特性は、実は大きなチャンスでもあります。
なぜなら、適切にプライドを尊重することで、むしろ強い成長意欲を引き出せるからです。
具体的には、他の同僚がいる場での指摘は避け、個別の面談で建設的なフィードバックを行うことが重要です。
「あなたの成長を期待しているからこそ」という前置きと共に、人格ではなく行動に焦点を当てた指導を心がけると効果的です。
逆に言えば、この文化的特性を理解せずに、日本式の「皆の前で注意する」やり方を続けてしまうと、優秀な人材を失う可能性があります。
これも、フィードバックの方法を工夫することで、むしろポジティブな成長意欲に繋げられます。
ネパール人と宗教【ヒンドゥー教の背景知識】
ネパール人の宗教的背景を理解するには、ヒンドゥー教徒が人口の約81%を占める現実を知ることが重要です。
ヒンドゥー教では、牛は神聖な動物として崇拝されています。
なぜなら、牛は富と豊穣の象徴であり、特に農業社会であるネパールでは生活に欠かせない存在だからです。
このため、多くのネパール人は牛肉を一切口にしません。
年に一度のダサイン祭(9月〜10月頃)は、家族が一堂に会する最も重要な祭日です。
この期間は、遠く離れた家族も故郷に帰り、10日間にわたって祝祭を行います。
なぜこれほど大切かというと、悪に対する善の勝利を祝う宗教的意味と、家族の絆を再確認する社会的意味があるためです。
日常的には、朝夕の祈りや寺院参拝を行う人も多く、職場でも宗教的な配慮が求められる場面があります。
こうした背景を理解することで、ネパール人の価値観や行動パターンがより明確に見えてくるでしょう。
ネパール人と日本語
ネパールは多様な民族が住んでおり、100以上の言語が話されていますが、実際にネパール語を母語として話す人は全体の半数程度です。
このような多言語の背景が、彼らに語学への抵抗感を少なくし、学習への興味や意欲を高めています。
また、多くのネパールの若者は英語を流暢に話します。
これはインドとの関係の深さや、若い頃からの英語教育、さらに私立学校での英語による授業などが影響しています。
また、英語能力は海外での仕事の際に重要なスキルとして扱われています。
日本語に関していえば、ネパール語との文法や構造の類似性や、母音の数がネパール語よりも少ないため、ネパール人にとって学びやすいとされています。
ネパールが親日的な国であることもあり、英語の次に人気のある外国語として多くの人々に学ばれています。
【管理者向けチェックリスト】
ネパール人材を受け入れる際の文化・宗教的配慮
ネパール人材を受け入れる際の文化・宗教的配慮は、採用担当者にとって重要な準備事項です。
適切な配慮により、ネパール人社員が安心して働ける環境を整えることができます。
食事面では、ヒンドゥー教徒の約81%が牛肉を一切摂取しないため、社員食堂や歓迎会では牛肉由来の食材を避ける必要があります。
ゼラチンや牛エキスが含まれる食品も同様です。
宗教的配慮として、9月から11月にかけてのダサイン祭やティハール祭の期間は、故郷への一時帰国を希望する社員が多くなります。
この時期の長期休暇申請に柔軟に対応する体制を整えておくことが重要です。
このほか日常的なコミュニケーションでは、物の受け渡しを右手で行う文化があることを理解し、
清潔さを重視する習慣に配慮した環境作りが求められます。
これらの配慮は決して特別な負担ではなく、相互理解を深める第一歩となるでしょう。
★管理者向けチェックリスト★
☐ 食事のルール: 牛肉(エキス、ゼラチン含む)はNGと周知。
本人に食事制限の有無を事前に確認する。
☐ 飲み会・食事会での配慮: 大皿料理は避け、個別に提供するか、清潔な取り分け用具を用意する。
☐ 昼食の習慣: 1日2食の習慣も考慮し、昼食を摂らなくても過度に心配しない。
☐ 長期休暇の希望: 9月〜11月のお祭りの時期は、一時帰国希望に柔軟に対応する姿勢を見せる。
☐ コミュニケーション: 物の受け渡しで「右手」を意識する文化があることを知識として知っておく。
【実践マネジメント術】
ネパール人社員の力を120%引き出すコミュニケーション
ネパール人社員との効果的なコミュニケーションには、彼らの文化的背景を理解した実践的なアプローチが欠かせません。
最も重要なのは、「指示の明確化」です。
日本人同士では「これ、よろしく」で通じることも、ネパール人には誤解を生む原因となります。
例えば、「【依頼内容】売上データの集計を、【目的】明日の会議資料として、【締切】今日の17時までに、【手順】この見本通りにExcelで作成をお願いします」といった5W1Hを明確にした指示が効果的です。
フィードバックの際は、必ず個別の場で行うことが鉄則です。
人前での注意は彼らのプライドを傷つけ、モチベーション低下につながります。
「〇〇さんの成長を期待しているからこそお伝えしますが、この作業手順を変えることで、さらに素晴らしい結果になると思います」のように、人格ではなく行動に焦点を当てた建設的な伝え方を心がけましょう。
時間管理については、「遅刻はダメ」と叱るのではなく、「日本では時間を守ることが信頼の証なんです」とポジティブに意味を伝えることで、自発的な改善を促すことができます。
①「日本の時間感覚」をポジティブに理解させる方法
時間に対する意識の違いを解決するコツは、「なぜ日本で時間を守ることが大切なのか」をポジティブに伝えることです。
「遅刻はダメ」と頭ごなしに叱るのではなく、「日本では、約束の時間を守ることが『あなたを信頼し、大切に思っている』という気持ちを表すサインなんです」と、その行動が持つ意味を説明しましょう。ネパール人は人間関係を重視する文化があるため、時間を守ることが信頼関係につながると理解すれば、自然と改善に取り組むようになります。
実践的な対策として、始業5分前の朝礼で一日の流れを共有する習慣を作ることが効果的です。
これにより、ネパール人社員も日本の時間感覚に自然と慣れていきます。
「時間を守る=チームへの思いやり」という価値観を共有することで、彼らの持つ家族愛やチーム意識と結びつけることができるのです。
②プライドを尊重し、成長を促すフィードバックの技術
ネパール人に対する効果的なフィードバックには、プライドを尊重した慎重なアプローチが必要です。
最も重要なルールは、人前での注意は絶対に避けることです。
必ず1on1の場を設け、次のテンプレートを活用しましょう。
「〇〇さんの成長を期待しているからこそお伝えしますが、〇〇という行動を、△△に変えてくれると、もっと素晴らしい結果になると思います」という話し方です。
このアプローチが効果的な理由は、人格を否定せず「行動」にフォーカスしているからです。
ネパール人は多民族国家で育った背景から、自尊心を大切にする文化があります。
そのため、「あなたがダメ」ではなく「この方法を変えると良い」という表現に変えることで、建設的な改善意欲を引き出せるのです。
具体例として、「書類の作成方法を、この見本通りに変えてくれると、さらに分かりやすい資料になります」といった伝え方を心がけてください。
③「察して」を卒業。誤解ゼロの指示の出し方
「これ、よろしく」という曖昧な指示が、ネパール人社員との間で最もトラブルを生みやすい原因です。
日本人同士では察することが美徳とされますが、異なる文化背景を持つネパール人には、この「察して文化」は混乱の元となってしまいます。
【実践マネジメント術】でも紹介した通り、効果的な指示には、5W1Hのフレームワークを活用しましょう。
「【依頼内容】月次売上レポートの作成を、【目的】来週の経営会議で使用するため、【締切】今日の15時までに、【手順】この見本のフォーマット通りに、【担当者】〇〇さんにお願いします」といった具体的な指示が理想的です。
なぜこの方法が効果的かというと、ネパール人は多言語環境で育っているため、言葉による明確なコミュニケーションに慣れているからです。
曖昧な表現よりも、具体的で構造化された情報の方が理解しやすいのです。
この指示方法に変えるだけで、作業の質が向上し、やり直しによる時間ロスも大幅に削減できます。
明確な指示は、ネパール人の真面目な仕事観を最大限に引き出す鍵となるでしょう。
まとめ
この記事で解説してきたネパール人の特徴やマネジメント術を振り返ると、成功の鍵は一つに集約されます。
それは、文化的な違いを理解し、適切なマネジメントを実践することです。
時間感覚の違いやプライドへの配慮といった課題は、決して乗り越えられない壁ではありません。
「日本の時間感覚をポジティブに伝える」「個別フィードバックでプライドを尊重する」「5W1Hで明確な指示を出す」といった具体的な手法により、これらの文化的差異をむしろ強みに変えることができるのです。
ネパール人が持つ真面目な仕事観、家族を大切にする心、年配者への敬意といった素晴らしい特性は、適切なマネジメントがあってこそ最大限に発揮されます。
相互理解に基づいた丁寧なコミュニケーションこそが、ネパール人材を「最高のパートナー」に変える唯一の道なのです。
ネパール人の入職者インタビュー
ネパール出身のビケさん。特定技能介護として日本で働いています。
ビケさんは、「日本で働くことを家族も応援してくれているので期待に応えたいです。
今後の目標は、たくさんお仕事頑張って、家族のために新しい家を建てることです!」と笑顔で語ってくれました。
採用後の定着と活躍まで見据えるなら、Stepjobへ
ネパール人の採用を検討されている皆さんにとって、最も重要なのは採用後のフォローアップです。
文化的背景を理解し、適切なマネジメントを実践できても、行政手続きや生活サポートまで自社ですべてをカバーするのは現実的ではありません。
Stepjobでは、医療・介護分野を中心とした外国人材の採用から定着までをフルサポートしています。
特定技能制度の複雑な手続きも完全サポートし、入職後の生活面でのフォローまで行うため、企業の皆さんは本来の業務に集中できます。