【特定技能】外国人労働者への脱退一時金について
【特定技能】脱退一時金とは何か?
特定技能外国人を採用していると、「脱退一時金」について問い合わせを受けることがあるのではないでしょうか?その「脱退一時金」の仕組みとその申請方法、申請に伴う退職や出入国の注意点について解説します。
脱退一時金とは、日本で働いた外国人労働者が老齢年金の受給資格期間である10年を満たさず退職し、母国に帰国する際に納めた年金保険料の一部を払い戻してもらえる制度です。外国人労働者に日本で支払った年金保険料の一部を払い戻しすることで掛け捨てになることを防いでいます。
支給対象者と条件
脱退一時金の支給対象者と条件は以下の通りです。
【支給対象者】
・日本国籍を持たない外国人労働者
【条件】
・日本の年金制度に6ヶ月以上10年未満加入していること
・障害年金の受給資格がないこと
・日本国内に住所がないこと
・日本に住所を保有しなくなった日から2年以内であること
支給対象外となる場合
以下の条件に該当する場合、脱退一時金の支給対象外となります。
・国民年金の被保険者となっているとき
・日本国内に住所を有するとき
・障害基礎年金、障害厚生年金などの年金を受けたことがあるとき
・最後に社会保険の資格を喪失した日から2年以上経過しているとき
脱退一時金の支給額
日本年金機構では、下記の通りの計算式で厚生年金の脱退一時金の支給額を定めています。
被保険者であった期間の平均標準報酬額 ※1×支給率(保険料率×2分の1×支給率計算に用いる数) ※2
※1
被保険者期間であった期間の平均標準報酬額は、以下のA+Bを合算した額を全体の被保険者期間の月数で除して得た額をいいます。
A 2003年(平成15年)4月より前の被保険者期間の標準報酬月額に1.3を乗じた額
B 2003年(平成15年)4月以後の被保険者期間の標準報酬月額および標準賞与額を合算した額
※2
支給率とは、最終月(資格喪失した日の属する月の前月)の属する年の前年10月の保険料率(最終月が1月~8月であれば、前々年10月の保険料率)に2分の1を乗じた率に、被保険者期間の区分に応じた支給率計算に用いる数を乗じたものをいいます。(計算の結果、小数点以下1位未満の端数がある場合は四捨五入します)
日本年金機構「脱退一時金の制度」より引用
下記の図のように、脱退一時金は60か月(5年)で上限に達します。もし60か月に達しても脱退一時金の申請をしない場合は、それ以上支給額が増えないため、外国人としてはそのタイミングで退職し、脱退一時金の手続きがしたいと希望するケースが多いようです。
2021年の制度改正により支給上限が5年に
また、脱退一時金制度の上限期間が3年→5年に伸びたことも、脱退一時金の受け取り希望者が増えた要因のようです。
以前の脱退一時金制度では、年金加入期間が3年以上あれば、保険料を長期間支払った場合でも受け取れる金額に変わりはありませんでした。この支給の上限期間が2021年4月1日より5年間に延長されました。この変更は、2019年に導入された「特定技能(1号)」在留資格の最大在留期間が5年であること、短期滞在の外国人の状況に変化が生じていることなどが背景にあります。
申請手続き
必要書類
- 1. 脱退一時金請求書(国民年金/厚生年金保険)
脱退一時金の請求書は外国語と日本語が併記された様式となっており、以下の外国語に対応しています。
2. 添付書類等
書類名 | 確認事項 |
パスポート(旅券)の写し (氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格の確認できるページ) | 本人からの請求であることの確認。 |
日本国内に住所を有しないことが確認できる書類 (住民票の除票の写しやパスポートの出国日が確認できるページの写し等) | 日本から出国していることの確認。 ※帰国前に市区町村に転出届を提出している場合は不要です。ただし、日本年金機構が外国人のアルファベット氏名の管理を開始した「平成24年7月」以前から被保険者である場合など、日本年金機構でアルファベット氏名を把握しておらず、住民票の消除情報を確認できない場合には、左記書類の提出が必要となります。 |
受取先金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、請求者本人の口座名義であることを確認できる書類(金融機関が発行した証明書等。または請求書の「銀行の証明」欄に銀行の証明でも可) | 受取可能な金融機関であることおよび請求者本人名義の口座であることの確認。 ※日本国内の金融機関で受け取る場合は、口座名義がカタカナで登録されていることが必要です。 ※ゆうちょ銀行および一部インターネット専業銀行では脱退一時金を受け取ることができません。 |
基礎年金番号通知書または年金手帳等の基礎年金番号を明らかにすることができる書類 | 年金の加入期間の確認。 |
代理人が請求手続きを行う場合は「委任状」 | 受任者からの請求手続きであることの確認。 ※代理人を通じて、脱退一時金の請求を行うことはできますか。|日本年金機構 (nenkin.go.jp)をご確認ください。 |
提出先・提出方法・提出時期
請求者(本人または代理人)が、脱退一時金請求書および添付書類を日本年金機構等へ提出してください。
区分 | 内容 |
提出先 | 日本年金機構本部または各共済組合等 ※加入していた制度およびその期間により提出先が異なります。 |
提出方法 | 郵送・電子申請 ※旅行など就労以外の目的で来日した場合には、年金事務所または街角の年金相談センターの窓口での提出が可能です。 |
提出時期 | 短期滞在の外国人が日本の住所をなくして出国後2年以内。 |
脱退一時金を請求する際の注意点
様々なケースで注意が必要です。詳しくは、年金Q&A「脱退一時金を請求するにあたって、どのような点に注意すればよいですか」|日本年金機構をご覧ください。
企業の役割と対応
脱退一時金を受け取るためには、退職するか一時的に厚生年金の脱退手続きが必要となり、退職した場合は再雇用・在留資格の認定申請手続きが必要となり、いずれにしても煩雑な手続きとなります。特に退職した場合は在留資格の認定申請中は日本で就労できないため、その間もらえる給与を考えると、脱退一時金をもらう意味があるのか?社宅を使用している場合はその間の家賃はどうするのか、など考慮する点が多くあります。脱退一時金の受取希望があった際には、外国人本人にメリットデメリットを説明したうえで方針を決めるのが望ましいでしょう。
とはいえ国民年金や厚生年金は国籍の要件がなく、納税義務の要件を満たせば外国人であっても被保険者となります。企業が脱退一時金についてしっかり説明することで、「受け取る予定のない年金保険料を支払いたくない」という外国人労働者の不安を緩和し、安心して働ける土台ができるのではないでしょうか。ぜひ、この機会に理解を深め、社会保険の必要性や脱退一時金制度について説明できる体制を企業内で整えておきましょう。