【緊急寄稿】技能実習生制度の見直しと特定技能2号の分野拡大の報道を受けて

特定技能

2023年4月28日
ポールトゥウィン株式会社
Srepjobグループ コンサルタントチーム

 

皆様もご存じかと思いますが、4月に入り、外国人の労働力、人材政策がらみで政府から二つの重要な指針が出されました。

 

まずは、4月10日のNHKニュースから
「技能実習制度を廃止 新制度へ移行を」政府の有識者会議
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230410/k10014033941000.html

記事にもある通り、

・10日、政府の有識者会議は、この技能実習制度を廃止し、新たな制度への移行を求める、中間報告のたたき台を示した
・新たな制度では人材育成だけではなく、働く人材の確保を主な目的に掲げ、これまで原則できなかった「転籍」と呼ばれる働く企業の変更も、従来に比べて緩和し、一定程度認める
・3年以上の実習を修了した技能実習生が試験を免除される「特定技能」により、円滑に移行できるようにして、中長期的に活躍する人材の確保につなげる

としています。

 

4月19日にも第6回の有識者会議が開催され、中間報告がまとめられています。
技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第6回)
https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/03_00064.html

https://mainichi.jp/articles/20230428/k00/00m/040/052000c

 

近年、技能実習生制度の問題(特に犯罪や失踪者)がメディアでも良く取り上げられる中で、政府も重い腰を上げて見直しにかじを切ったと言えるでしょう。
ただ、1993年に始まって30年の歴史のあるこの制度をいきなりなくすのは難しい。
いろいろと問題もあるが、日本の労働力不足を支えてくれている多くの技能実習生の存在なくしては成り立たない社会構造になっているのも事実です。
また、各国政府や関連の事業者、利害関係者との調整もなかなか難しいでしょう。

 

ただ、重要なのは制度をどのようにするかの形式的な議論ではなく、少子高齢化社会がさらに加速する日本で、

①外国人が日本で働いてみたいと感じてもらえること
②日本で得た経験や知識、スキルを活かせること
③経済的にも十分な報酬を得て満足を得られること

だと考えます。

 

しかしながら、現状は、

・他の先進国の方が魅力的な制度や受け入れ体制が整っている
・円安で経済的にも魅力が薄れてしまっている

ことから、日本の魅力度、優先度が相対的に下がっています。

 

当社もこれまで数多くの外国人人材を紹介させていただきましたが、

①給与等の処遇に納得感がある
②職場の人間関係が良好
③生活環境が不便でない

が整っていれば、離職率はかなり下がると感じています。

 

そういう点では、現行の技能実習生制度は①の処遇の点では不満が出るのは仕方ないと思われます。最低賃金+αかつ賞与も基本的にはありませんので。
私もコロナ禍で200人以上の帰国困難な技能実習生、元技能実習生と面談しましたが、手取り11~13万円ぐらいの中から実家に7~9万円ぐらい毎月仕送りしています。仕送りしたら手元に残るのは食費プラスαぐらいです。これで3年もしくは5年、良く頑張っていると思います。
失踪の原因はいろいろとありますが、転職できないこと以前に、①の処遇や②の人間関係の問題が大きい。

 

そこで、2019年にスタートした特定技能では、「日本人の無資格者と同等」の給与水準が示されました。コロナ禍による帰国困難も相まって、多くの技能実習生が特定技能へ移行しました。
技能実習生と同じ分野で移行するだけでなく、他の分野へチャレンジする人材も少なからず。特に介護は「夜勤への期待(収入UP)」、「日本語力向上への期待(スキルUP)」、「介護福祉へのチャレンジ(キャリアアップ)」というモチベーションが高い人材に人気となりました。

 

ただ、特定技能も原則として5年間の在留期限があります。
また、技能実習生との制度面、処遇面での乖離もあります。

2024年4月以降、特定技能1号(5年)終了で帰国が見込まれる人材がどんどん出てきます。これは今年度中に何かしらの指針を示して、閣議決定する必要があると考えていたところ、

4月25日に日経新聞から出された記事
外国人「特定技能2号」の分野拡大 家族帯同・永住に道

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE19CSG0Z10C23A4000000/

(全文を読むには要無料会員登録)

 

こちらのNHKニュースのまとめもわかりやすいです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230424/k10014047771000.html

 

以前から議論はされてきたところですが、法務大臣、入管庁も後押しする形で進みつつあります。

 

外国人の無期限就労OK「特定技能2号」拡大を 入管庁が自民に提案
https://mainichi.jp/articles/20230423/k00/00m/040/183000c

党内にも「移民政策」と反対する勢力があるようですが、26日に政府が公表した「将来人口推計」がここ数日、メディアで盛んに取り上げられている通り、

50年後、人口8700万人 10人に1人が外国人―出生率、前回推計から低下・厚労省
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023042600766&g=eco

【緊急寄稿】技能実習生制度の見直しと特定技能2号の分野拡大の報道を受けて

 

こうなることは20年以上前から分かっていたことです。人口動態の統計予測は経済予測よりも確実に襲ってきます(多少のタイムラグはあっても)。このまま少子高齢化が進むと、日本の国力、経済力はどんどん縮小し、国際競争力を失うだけでなく、分野によっては社会生活や経済活動の維持にも支障が出てくるでしょう。

特に、AIやロボットに置き換えが難しいとされる分野があります。俗にエッセンシャルワーカーと呼ばれる医療、介護福祉、保育、教育、自治体・公共交通機関などの公共サービス、ガス・水道・電気・通信など生活インフラ、物流、生活用品を扱うスーパーやドラッグストア、コンビニなどの小売業など。中でも医療介護は少子高齢化の影響を大きく受けています。
日本は経済的にはまだ先進国ですが、外国人の人材活用に関しては「後進国」です。このままでは先進国の中でのポジションは徐々に落ちていきます。
移民先進国と呼ばれるカナダは全人口の23%が移民です。カナダも試行錯誤はしながらですが、カナダが目指す将来が、先進国のあるべき姿になるのかもしれません。
https://visajpcanada.com/blog-2023-0110/

 

 

では、最終的にどのような方で着地していくのか?
ここで気になる点は三つ、

①技能実習生制度と特定技能でどのような形で役割の整理をしていくのか?
→技能実習生制度はいきなりなくすのは難しい、ベトナムのように特定技能に前向きではない国もある

②今回、2号への移行対象分野から除外されている「介護」がどうなるのか?
→現状は介護福祉士の国試合格というルートがあることで除外されていますが、同じ方針を継続するのか?

③特定技能が対象外とされている「訪問系」「サ高住」「住宅型有料」などの施設が対象となる余地はあるのか?

 

①については、政府および有識者会議の議論と意思決定しだいですが、先に述べたように、外国人が日本で働きたいと思えることが重要。目先に捉われることなく、極力、既得権益や反対派の勢力の思惑を排除して進めていただきたいものです。

②については、一部の業界団体の反発があると聞いていますが、当社でこれまでに介護福祉士の留学生を450名ほどサポートしてきて、国試合格率は30%程度です(学校によって差はありますが)。当社でも国試対策のサポートは行いますが、特定技能5年間のうちに合格することは高いハードルです。国試合格を必須とすると、介護はおそらく他の特定技能の分野に比べて最も2号への移行ハードルが高くなります。
対策として、国試でなくとも、たとえば「実務経験3年以上+実務者研修終了」を条件にするなど、現実的な施策が必要ではないかと思われます。
このままでは多くの特定技能介護の1号は5年満了で帰国してしまうでしょう。2024年の政府の特定技能の目標人数6万人にもまだまだ遠いです(2023年1月時点で約17,000人)。

③について、訪問系の有効求人倍率が15倍と言われます。施設系が4倍強なので大きな開きがあります。外国人が訪問系で就労するには介護福祉士の資格が必要です。外国人の場合、人権侵害の可能性があるとの理由で特定技能では認めていないと聞きましたが、政府、厚労省が「在宅介護」を推奨している一方で、人材不足が深刻です。ここも、「実務経験3年以上+実務者研修終了」を条件とするなどの条件緩和が必要ではないかと思われます。

 

当社は2023年3月より、一般社団法人外国人雇用協議会(Jaefn)に入会させていただきました。外国人の人材紹介会社と登録支援機関、日本語学校などが外国人雇用、外国人人材活用のあるべき姿を真剣に議論しながら、政府や関係省庁に対しても政策提言を行っています。当社も微力ながら、活動に寄与できれば思います。協議会の活動がらみで有益な情報があれば、記事やメルマガでもご紹介をしてきます。

 

長くなりましたが、これでいったん筆を置きます。

今後ともよろしくお願いいたします

その他の記事