外国人採用におけるバックグラウンドチェックの重要性とは?事前に確認しておくべき3つのポイント!

近年、国内で働く外国人労働者は増加しており、外国人を雇用する事業所数も年々拡大しています。
厚生労働省の調査によると、令和6年10月末時点で外国人労働者数は、過去最高の約230万人。
少子高齢化により、日本企業にとって外国人採用は「人材確保の選択肢」ではなく、すでに「経営戦略の一部」と言える状況になっています。
しかし、外国人採用には日本人採用とは異なるリスク要素や確認すべきポイントが存在するため、自社で外国人を採用する場合においては、候補者のバックグラウンドをしっかりと確認しておくことが重要です。バックグラウンドチェックを適切に行うことで、企業側は適切な人材を採用でき、従業員側も自分の経験やスキルを正当に評価してもらえるというメリットがあります。
特に外国人採用においては、国内の日本人採用とは異なる配慮が必要となるため、事前の確認プロセスがより一層重要です。
本記事では、外国人雇用で押さえておきたいポイントから、バックグラウンドチェックの項目、実施する際の注意点などを解説します。
外国人雇用で押さえておきたいポイント

外国人を雇用する際には、事前に確認しておくべきポイントが主に3つあります。
これらを事前に理解することで、スムーズな採用と良好な雇用関係を築くことができます。
学歴・経歴などのバックグラウンドの確認
海外で取得した学位や資格、職務経験は、その評価や確認が難しいことがあります。
たとえば、「大学卒業」という肩書きでも、国によって教育制度や水準が異なるため、候補者の能力を正確に判断できないこともあるでしょう。成績証明書などを提示してもらうことで、求職者がどの程度のスキルを有しているか、また大学卒業の証明を確認することができます。
事前に確認することで、候補者が持つ本当の強みやスキルを正しく把握することができます。
これは単に採用の可否を判断するためだけでなく、入社後の適切な配置や育成計画を立てる上でも非常に重要です。
在留資格・ビザの確認
外国人を雇用する上で最も基本的かつ重要なのが、在留資格・ビザの確認です。
在留資格には、『技術・人文知識・国際業務』『特定技能』『留学』『家族滞在』など多様な種類があり、資格ごとに従事できる業務が細かく定められています。
日本で働くためには適切な在留資格が必要であり、その種類によって従事できる業務内容や就労期間に制限があります。不適切な在留資格での就労は、企業側にも罰則が科される可能性があるため、採用前の確認は必須です。
また、在留期間の管理も欠かせません。
更新のタイミングを把握しておくことで、継続的な雇用を円滑に進めることができます。
文化・価値観の違いへの配慮
外国人を受け入れる際には、文化的背景や価値観の違いを理解し、配慮することが大切です。
法制度、文化や宗教に関する習慣、仕事に対する考え方など、日本人とは異なる部分が多くあります。
こうした違いを理解したうえで適切な体制を整えることは、企業のリスク管理と外国人従業員の活躍促進の両面で欠かせません。多様性を尊重する職場環境は、すべての従業員にとって働きやすい場所となり、組織全体の活性化にもつながります。
バックグラウンドチェックとは
バックグラウンドチェックは、本来「犯歴照会」を意味する英語の用語です。
広義には、学歴・職歴の確認、訴訟歴、破産歴、その他の身元確認も含まれます。
欧米諸国およびその旧植民地国では、採用時のバックグラウンドチェックが法律で義務付けられているか、当然の慣行として定着しています。
一方、日本や中国、韓国などの東アジア地域、中東や南米などでは、バックグラウンドチェックを身元確認のツールとして利用する考え方が浸透しておらず、確認自体が困難な状況です。
反社チェックとの違い
日本では、反社チェックという言葉が使われることがありますが、これは犯罪歴記録を公開しない国内事情から生まれた婉曲的な表現です。限定的な確認しかできないにもかかわらず、網羅的にチェックしたかのような印象を持たせます。
海外では、日本の暴力団のような社会公認の犯罪組織は存在しないため、「反社会的勢力への所属確認」という概念では問題人物を特定できません。
そのため、バックグラウンドチェックが重視されています。
具体的には、実質的なリスク管理として、個人の背景や制裁履歴などを確認する「コンプライアンスチェック(KYCチェック)」が行われます。
- ・制裁対象人物リストの照会
- ・要注意人物リストの確認
- ・腐敗リスクのある政治的要人(PEPs)のチェック
バックグラウンドチェックの項目
前述した学歴・経歴確認や在留資格の確認などを実際に行う際、バックグラウンドチェックとしてどのような項目を確認すべきでしょうか。外国人雇用におけるバックグラウンドチェックでは、主に下記4つを確認することが一般的です。
- ・学歴・職歴の確認
- ・犯罪歴・反社チェック
- ・ビザや在留資格の有効性の確認
- ・経済的信用情報の把握
学歴・職歴の確認
卒業証明書や在籍証明書、前職での業務内容や実績などを確認します。
海外の教育機関や企業に直接確認を取ることが難しい場合は、専門の調査機関を活用することも可能です。
犯罪歴・反社チェック
企業のリスク管理の観点から、犯罪歴の有無や反社会的勢力との関わりの有無を確認することも重要です。
ただし、この調査には法的な制限があるため、可能な範囲での確認となります。
ビザや在留資格の有効性の確認
在留資格の種類、在留期間、就労制限の有無なども確認しましょう。
その際は、在留カードが偽造されたものでないか、有効期限内であるかなど、細かくチェックすることが大切です。
経済的信用情報の把握
経済的な信用状況を確認することも検討されます。
欧米諸国およびその旧植民地国では、金銭を扱う重要職種において、クレジットレポートの確認が義務付けられている場合が多数あります。
日本では、金融業者間のみで情報利用が認められており、確認できる範囲は限定的です。
公開情報や本人からの申告を基に判断することになります。
しかし、確認が行われないことを知った要注意人物が入社してしまうリスクを防ぐためにも、候補者の母国でクレジットレポートの取得が容易な場合は、確認しましょう。

バックグラウンドチェックの注意点

バックグラウンドチェックを実施する際には、注意点を踏まえて、適切な確認が必要となります。
採用調査や身辺調査などの探偵業に30年以上従事している株式会社Japan PIの小山氏によると、特に以下の4点に注意が必要だといいます。
候補者の母国基準で判断する
日本の常識にとらわれず、候補者の出身国の文化や法制度を把握し、バックグラウンドチェックが義務付けられている国出身者に対しては、適切な確認を実施すべきです。バックグラウンドチェックが一般的な国の出身者にとっては、確認を行わないことが不信感につながる可能性があります。
さらに、採用後に問題が発生した場合、Negligent Hiring(採用過失)で雇用主が訴えられる可能性も。
英国政府のウェブサイトでは、世界各国の犯歴確認方法や可否について詳細な情報が提供されていますので、参考にしてみてください。
参考:Criminal records checks for overseas applicants
個人情報保護に配慮する
候補者の個人情報を取り扱うため、必ず本人の同意を得た上で実施する必要があります。
個人情報保護法に基づき、取得する情報の目的を明確にし、必要最小限の範囲にとどめることが重要です。
また、取得した情報は適切に管理し、採用判断以外の目的で使用しないこと、不採用となった場合は適切に廃棄することなど、プライバシーに十分配慮しましょう。
さらに、外国人採用の場合は、母国の法制度が絡む可能性もあるため、慎重に進めることが必要です。
透明性のあるプロセスは、企業の信頼性向上にもつながります。
犯罪歴や信用情報の確認は法的に可能な範囲で調査する
日本では、警察や信用情報機関が保有するデータを自由に取得することはできません。
警察庁が犯罪歴の自己開示制度を設けておらず、原則本人でも自身の記録を確認できない秘密主義体制となっています。
そのため、バックグラウンドチェックでは公的に確認可能な情報のみを活用し、違法な手段で情報を取得しないよう注意が必要です。不適切な調査方法は、企業の法的リスクを高めるだけでなく、候補者との信頼関係も損ねることになります。
法的・制度的な制約が多いため、必要に応じて、探偵や弁護士などの専門家に相談しながら進めると良いでしょう。
提出書類の真正性を確認する
外国人採用時には、本人が提出した書類の真偽を慎重に確認する必要があります。
日本では偽造身分証明書が大きな社会問題になっていませんが、偽造証明書作成を代行する専門業者が横行している国は少なくありません。
事例:
①アメリカ:卒業証明書の偽造業者を利用した学歴詐称「ディプロマ(ディグリー)・ミル」
参照:「ディプロマ(ディグリー)・ミル」問題について|文部科学省
②日本:中国人によるTOEICの組織的替え玉受験
参照:中国系のTOEICカンニング業者乱立か|読売新聞
海外では「候補者本人が提出した書類は信用できない」という前提で対応する国の方が多いのが実情です。
提出書類をそのまま信用せず、以下の方法で真正性を検証しましょう。
- ・同一書類の再取得を依頼する
- ・発行元への直接確認する
- ・真正性の検証手続きの徹底する

バックグラウンドチェックを行うメリット
適切なバックグラウンドチェックを実施することで、企業は以下のメリットを得ることができます。
安心して採用できる
バックグラウンドチェックを行うことで、経歴詐称や不適切な在留資格での就労といった問題を未然に防ぐことができます。これにより、採用後のトラブルを避け、企業は安心して人材を受け入れることが可能です。
また、候補者のスキルや経験を正確に把握できるため、適材適所の配置ができるでしょう。
不法就労・制度違反のリスクを回避(特に特定技能・技人国で重要)
在留資格の間違いは、企業に重大なリスクをもたらします。
バックグラウンドチェックは、不法就労を未然に防ぐための重要手段です。
在留資格の種類と活動内容が一致していない場合、企業は不法就労助長罪に問われる可能性があります。
たとえ“本人が働けると言っていた”としても、確認を怠れば企業側も処罰の対象になります。
特に「特定技能」や「技術・人文知識・国際業務(技人国)」は、仕事内容に対する適合性が厳しく審査されるため、より慎重なチェックが欠かせません。
近年、出入国在留管理庁は外国人雇用管理に関する指導・監査を強化しており、契約内容や実際の労働条件が異なる場合でも指摘対象になります。
そのため企業側は、採用前の確認だけでなく、採用後も在留期間の更新時期の管理や、職務内容変更時の届出などを適切に行うことが求められます。そのため、バックグラウンドチェックは外国人採用を安全かつ安定的に行うためのメリットとなります。
企業イメージとコンプライアンスの向上につながる
適切な採用プロセスを整えることは、企業のコンプライアンス意識の高さを示すことになり、社会的な信頼性の向上が期待できます。昨今、企業のガバナンスが重視される中で、確立された体制を持つことは、取引先や顧客からの信頼獲得にもつながります。
また、既存の従業員にとっても、会社がしっかりとした基準で採用を行っていることで、職場に対する安心感や信頼感が高まります。
まとめ
外国人雇用におけるバックグラウンドチェックは、企業にとって重要な採用プロセスの1つです。
候補者の提出書類をそのまま受け取るだけでなく、学歴・経歴、在留資格の有無、犯罪歴、経済的信用情報など、必要な項目を適切に確認することが大切です。
自社で外国人雇用をする場合は、特に慎重な対応が求められます。
応募者の出身国の文化や法制度、商習慣を理解したうえで、適切なバックグラウンドチェックを行うことが、企業のリスク管理において欠かせません。
バックグラウンドチェックを通じて、企業も従業員も安心して働ける環境を構築しましょう。





